
「本能の力」と、古人の知恵に学ぶ
たとえば、きゅうりの両端を切り落とし、その切り口同士を擦り合わせる。あるいは、まな板の上でコロコロと転がす。そんなちょっとした手間で、あの独特の苦味が軽減されることをご存知の方も多いかもしれません。これは「アクを取る」という、昔ながらの知恵のひとつ。また、焼き魚に大根おろしを添えるのも、ただの味の相性ではなく、消化を助ける酵素を自然に摂取する工夫です。科学的な知識がなかった時代、人々は自分たちの“味覚”や“本能”を研ぎ澄ませ、必要なことを感覚で見抜いていたのです。
こうした知恵は、「身体の声を聞く」ことから生まれてきたのだと思います。
感覚の衰えと、本能の眠り
現代は、あらゆることが効率化され、便利になりました。食材の下ごしらえはすでに済んでいたり、調味料には“おいしさ”が計算され尽くされていたり。とてもありがたい一方で、私たちは“感じる力”を使う機会がどんどん減っているのかもしれません。味覚だけではありません。嗅覚や触覚、直感など、かつて人間が自然の中で生き延びるために研ぎ澄ましていた「本能」や「感覚」は、静かに眠りについてしまっているのではないでしょうか。
本能を呼び覚ます「香り」と「触れられる感覚」
そうした感覚を再び目覚めさせる手段のひとつが、香り=アロマです。天然の植物から得られる精油の香りは、嗅覚を通じて脳の奥深く、「本能」や「記憶」をつかさどる部分にダイレクトに働きかけます。心と体を整えるだけでなく、“感じる”力そのものを呼び戻すスイッチにもなり得るのです。また、頭部への穏やかな刺激——たとえばヘッドスパも、感覚の目覚めに非常に有効です。頭には多くのツボが集まり、神経の集中ポイントでもあります。そこをゆっくりとほぐされることで、身体と感覚が深いリセット状態に入り、本能が静かに息を吹き返します。
自分の感覚ともう一度つながる
「感じることを取り戻す」ことは、単に癒されること以上に、自分自身の知恵や直感、本来の健やかさを呼び戻す営みです。昔の人が、知識がなくても自然と「良い選択」ができたように、私たちも本来、自分にとって何が必要で、何が不要かを“感じる力”を持っているはず。その眠っている感覚に、もう一度、そっと火を灯してみませんか?