― 現代生理学から紐解く、養生の知恵 ―
前回の記事
「先人達の観察眼 〜骨と腎〜」 では、
東洋医学において「腎」が骨や成長、
老化と深く関わると捉えられてきた
背景を、現代医学の視点から考察しました。
今回はその第二弾として、
腎と泌尿器系の関係 に焦点を当て、
先人達の洞察がいかに理にかなっていたのかを、
現代生理学を通して紐解いていきたいと思います。
腎と泌尿器系 〜 東洋医学の視点
東洋医学では、
「腎」は単なる臓器としての腎臓を指すのではなく、
水分代謝
尿の生成・排泄
生命エネルギー(精)の貯蔵
といった、泌尿器系全体の働きを包括する概念
として捉えられてきました。
そのため、頻尿、夜間尿、尿意切迫感などの症状は、
現代で言う「過活動膀胱」であっても、東洋医学的には
「腎の不調」として扱われてきたのです。
過活動膀胱と現代生理学
現代医学における過活動膀胱は、
膀胱平滑筋の過剰な収縮
自律神経(特に副交感神経)の過活動
が関与していることが分かっています。
ここで重要になるのが、
筋肉の収縮と弛緩を調整するミネラル、
特に マグネシウム の存在です。
マグネシウムと頻尿の関係
マグネシウムは、
筋肉の過剰な収縮を抑える
神経の興奮を鎮める
平滑筋(膀胱・血管・腸など)を緩める
といった働きを持つミネラルです。
つまり、
マグネシウムが不足すると、
膀胱の筋肉は緊張しやすくなり、
頻尿や尿意切迫感が起こりやすくなるというわけです。
ここまでを見ると、
東洋医学の「腎=排尿機能」という捉え方が、
極めて生理学的であったことに気づかされます。
「腎は鹹味(かんみ)」が示すもの
東洋医学では、
腎は「鹹味(かんみ)」
つまり塩味と関係が深いとされています。
鹹味に属する食材には、
塩
海藻
海産物
などがあります。
これは単に「塩分を摂れ」という意味ではありません。
重要なのは ミネラルを含んだ塩 であるという点です。
精製塩とミネラル塩の違い
現代の食生活で多く使われている精製塩は、
ナトリウムのみが強調され
マグネシウム、カルシウム、カリウムなどがほぼ除去
されています。
一方、
海塩や天然塩には、マグネシウムをはじめとする多様な
ミネラルが含まれています。
先人達は、化学分析などできない時代に、
「腎と鹹味」「海のものが腎を養う」という経験則を通して、
ミネラルが体の緊張を緩め、排尿機能を整える
ことを見抜いていたと考えられます。
現代に生かす養生の知恵
腎と泌尿器系を養うために、
現代で実践しやすい養生としては、
精製塩ではなく、ミネラルを含む塩を選ぶ
海藻や海産物を適度に食事に取り入れる
マグネシウム不足を意識する
(ストレス・糖質過多・カフェイン過剰で消耗しやすい)
冷えや過労を避け、「腎」を消耗させない生活を心がける
といった点が挙げられます。
先人の知恵は、今もなお生きている
現代生理学の知見が進めば進むほど、
東洋医学の概念が「曖昧な思想」ではなく、
鋭い観察と長年の経験に裏打ちされた体系的な医学
であったことが明確になってきています。
腎と泌尿器系、
マグネシウムと筋の緊張、
鹹味とミネラル。
これらを日々の養生に落とし込むことこそが、
先人達の知恵を現代に生かすということなのかもしれません。
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