セルフケアをしていく上で大切なのは、「感性を高めること」です。ここで言う感性とは、芸術的な感受性というよりも、“今の自分に本当に必要なこと”を感じ取る力のこと。たとえば、「今の私にはどんな食材が必要だろう?」「今日はこれ以上頑張らず、しっかり休もう」といったように、頭で考える前に自然と気づける感覚。それが本来、誰もが持っている“自己調整の力”なのです。 しかし現代人の多くは、知らず知らずのうちに無理を重ね、その感覚が鈍く、時には麻痺してしまっています。仕事でのストレス、スマホの見過ぎ、お酒や暴飲暴食といった代償行為…。一時的には心を落ち着かせるように感じても、実は心身の声をさらに聞き取りにくくしてしまうこともあります。さらに、乱れた食生活も感性を鈍らせる要因です。化学調味料や保存料などの添加物は味覚だけでなく、脳の神経伝達にまで影響を与え、自律神経をはじめとした“感じる力”の働きを弱めてしまいます。 一方、先人たちは味覚や感覚を通じて自然とつながり、自らの体に合った食材を見極めてきました。たとえば「苦味」には、熱を冷まし、解毒する作用があります。沖縄で食されるゴーヤや、漢方薬の黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は、まさに“清熱”といって、体の炎症やのぼせを鎮める目的で用いられています。また、漢方の世界では塩味は「鹹味(かんみ)」と呼ばれます。この塩味には“軟堅散結(なんけんさんけつ)”といって、固まりや滞りをやわらげる働きがあるとされます。現代的に言えば、塩に含まれるマグネシウムが不足すると血管や筋肉が収縮して肩こりや頭痛を引き起こす一方、十分に足りていると筋肉の緊張がゆるみ、症状がやわらぐ——この作用と一致しているのです。 科学や検査技術がなかった時代に、こうした体の仕組みを“感覚”で見抜いていたことは驚きです。まるで野生動物が嗅覚や触覚を使って食べ物を見分けるように、人間にも同じ本能的な力が備わっています。ただ、今の私たちはその感覚が鈍くなり、疲れた時に甘いものを欲しても、それが本当に体が必要としているものではなく、“脳が一時的に求めているだけ”ということも少なくありません。 そんな時こそ、漢方アロマの香りが助けになります。香りは本能に直接働きかけ、私たちが本来持っている「感覚を取り戻す力」を呼び覚ましてくれます。嗅覚は人間の感覚の中でも最も早く発達した器官のひとつであり、“原始的な感覚”とも呼ばれるほど、生存に直結した重要な感覚です。心地よい香りを感じながら、深い呼吸をすることで心と体のバランスが整い、感性が少しずつ研ぎ澄まされていきます。 感性を高めることは、「自分にとって本当に必要なもの」を見極める力を養うこと。それこそが、真のセルフケアへの第一歩です。